「朗読者」 ベルンハルト・シュリンク
最近、久しぶりに読み直して、心に響いた本です。
「朗読者」
著者 ベルンハルト・シュリンク
訳 松永 美穂
古いカメラ、または8ミリカメラのレンズを通して一連の情景を眺めているような、
そんな小説です。
1960年代の西ドイツを舞台に、15歳の少年と30代半ばの女性の恋愛、
ナチス時代の戦争犯罪、法律学、さまざまな設定が影を落としている物語。
小説の中で、大人になった主人公のミヒャエルが自分の人生について、そのときの
行動について振り返るところ、何度も読んでしまいます。
『考え、結論を出し、結論を固めて決断へと導いても、行動の方は独立独歩で、
その決断に従うこともできるが、従う義務もない、ということになるのだ。
人生においてぼくはもう充分すぎるほど、決断しなかったことを実行に移してしまい、
決断したことを実行に移さなかった。』
ときには衝動に従え、とか、理性が行動を制する、とか、そういうことではなくて、
時に、人は思考や決断をやすやすと乗り越えて本能的に行動してしまう。
曲がり角の直前まで右に曲がろうと考えていても、ぱっと左に足をむけてしまうことが
人にはある。
たとえそれが、予想以上に大きなターニングポイントだったとしても。
人へのかなしみ、人生への愛しさがかえって感じられる文章だなあと、
何度も読み返しています。
ヒロインのハンナの服装、生地の柄や素材の質感についての描写がこまやかで、
時にノスタルジックに、そして官能的に想像をかきたてるところも醍醐味です。
2009年に映画化され、ケイト・ウィンスレットがヒロインを演じて話題になりました。
確か、この作品でアカデミー賞を受賞したんじゃなかったかな。
最初は新潮社のクレスト・ブックスとして出版された本で、単純に「値段が高い!」と感じたのを覚えています。
その後に文庫版が出て、通勤などで手軽に持ち歩きたくなり、文庫本も買ってしまった。
一度読んだことがある方、ひさしぶりにひっぱりだして、読んでみませんか。
テーマ:今週のお題「最近おもしろかった本」
はじめまして
日々の暮らしは、小さな「選択」の積み重ね。
人、もの、場所、風景。
私の心をノックしてくれる「こんこん」という音を
聞き逃さないようにしたいです。